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永田 稔 (ながた みのる)

コンサルタント

タレント・リワード セグメント
組織人事部門 ディレクター

コーポレートガバナンス・コードが施行されてまもなく1年が経とうとしているが、各企業の担当者の方におかれては、コードへの対応に追われる1年であったであろう。本稿では、施行から約1年を経て、改めて今までの取り組みを振り返り、今後の課題を挙げてみたい。

今までの取り組みの中で、いずれの機関形態をとっている企業においても、社外取締役の導入状況は進んでいる。しかしながら、社外取締役の活用状況に関しては、まだ暗中模索という状況にあるのではないだろうか。実際に、私の知り合いでもある社外取締役に就いている方は、本音として「どのように貢献していいのか悩ましい。」と仰っていた。この背景には、社外取締役という役割の歴史がまだ浅く、機能や役割に関する社会的コンセンサスや社会的な経験知の蓄積・共有が十分でないという事情があるだろう。

米国では、社外取締役の経験が豊富な元経営者などのシニアな人々が社外取締役の労働市場の上位層を形成しており、そのような人々が様々な企業で社外取締役を担いながら、その傍らでまだ経験の浅い社外取締役の手本となり、社外取締役育成の社会的循環が形成されている。このような環境により、社外取締役の果たすべき役割が社会的に共有されているのである。

一方で、日本企業において社外取締役が監視、監督、アドバイザーのいずれの役割においても、具体的にどのような「役割」を果たすのかが共有されにくい状況にある。市場や投資家から評価されるボードたるには、この社外取締役を含む各取締役、またその集合体である取締役会、さらに執行陣の各々の「役割」設定と各メンバー間での役割認識の共有化がまず大切である。

企業としてどのような姿勢で市場に向かい合い、各メンバーはどのような役割を通じ企業を統制し成長に導いてゆくのか。自分本位や今までの経緯やしがらみを抜きに、市場や投資家の視点を持ち経営者自身の役割や社外取締役の「役割」を決めてゆくこと、説明できることが「評価される」ボードになるための第一の要諦である。

第二の要諦は、社外取締役の「役割」がほぼ決まったのち、その役割を遂行するための「資源」をもっているかという点である。ここでの「資源」は、情報であり、スキルである。まず情報から述べると、日本企業においては社外取締役と執行部の間の「情報格差」が大きい。この情報格差の原因は、社外取締役以外の経営陣(社内取締役、執行役(員))は長期雇用により社内の情報を暗黙的に共有しているが、それらの情報は社外の人に共有できるよう明示化、形式知化できていないためである。海外においても、社内と社外の情報格差は当然存在するが、社内の役員自体も中途入社者が常にいるため、社内の情報を効率的にキャッチアップさせるための情報の形式知化、明示化が行われているのである。この点を長期雇用ゆえに必要としてこなかった日本企業においては、社外の方に必要な情報を効率的に伝えることが苦手であり、これが社内の役員(取締役及び執行)と社外取締役の情報格差を生んでいるのである。

既に読者の皆さんはお気づきであろうが、この情報格差の問題はなにも取締役間に限ったことではなく、一般社員でも発生をする。新卒入社者と中途入社者の間における情報格差や、日本人と外国人の間における情報格差など、日本企業の組織の至るところで発生している問題である。そのような意味で、この「ウチとソト」の情報格差の解消は、日本企業が今後取り組むべき課題である。

次にスキルであるが、取締役が執行を監視・監督するためのスキルは具体的にどのようなものであろうか?社外取締役が監視・監督役として主に参加するのは、取締役会を中心とした経営の意思決定の場面であろう。社外取締役に期待されているのは、「ある意思決定がその企業の企業価値向上の観点から適切なものであるかどうかを、社外の目で確認し、もしその意思決定の内容やプロセスが不適と考えた際には異議を申し立てること」と考える。社外取締役は各分野の有識者や経営者としての経歴をお持ちの方が大半を占め、それぞれご自身の専門性や経験、知識を基に、経営執行陣がなす意思決定の妥当性を検証し監視・監督をされていると考える。当然、有識者や以前経営者であった方の経験、知識に基づく集団的意思決定は有効なものであるが、それだけでは十分ではない。

心理学の研究においては、人間のなす意思決定にはバイアスが入り込む危険が常にあり、それは経営執行陣、それを監視・監督する取締役のどちらにも発生し、意思決定を行う際に陥りがちな罠である。経営の意思決定の妥当性を担保するためには、意思決定への参加者がバイアスの罠に陥らないことが必要であり、その落とし穴を避けることが監視・監督するための必要なスキルである。このバイアスの詳細については非常に専門的で長くなるので、またの次の機会にお話しをしようと思うが、人間の意思決定は完全ではないということだけでも、「取締役のトレーニング」で知っておくべきことであろう。

以上のような、各役割の設定と、役割を果たすための資源(十分な情報とスキル)がボードを機能させるために必要であり、このような点に対する取組みをきちんと外部に説明できる企業が、社会的にも市場からも「評価」されるボードになるのであろう。


【 執筆者プロフィール 】
永田 稔 (ながた みのる)
コンサルタント
タレント・リワード セグメント
組織人事部門
ディレクター

松下電器産業(現パナソニック)、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、タワーズワトソンに入社。ビジネスモデル、組織モデル、人材マネジメントモデルを一体としたコンサルティングに従事。日本企業の組織・人材のグローバル化を主なテーマとして担当。他にもエグゼクティブの評価、報酬制度のプロジェクト、経営人材開発プロジェクトなど経営人事、組織マネジメントに関する領域を主に担当している。

一橋大学社会学部卒業。 カリフォルニア大学ロスアンジェルス校にてMBA取得
早稲田大学 MBA 人材マネジメントコース 非常勤講師


【 著 書 】

《 書籍・コラム 》
『不機嫌な職場』 (講談社現代新書)
『リーダーシップの名著を読む』 (日本経済新聞社)
『経営書を読む』 (日本経済新聞・日経Bizアカデミー)
『攻めのガバナンス 経営者報酬・指名の戦略的改革』 (東洋経済新報社)  

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2015年01月 2015年念頭にあたって
2014年11月 ダイバーシティマネジメントの見えざるリスク
2014年09月 メンバーシップによるマネジメント -- 多様性をマネジメントする
2014年06月 日本企業変革のボトルネック
2014年04月 ダイバーシティマネジメントとUnconscious Bias(無意識バイアス)
2014年01月 人材マネジメント変革元年
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