小川 直人 

小川 直人

コンサルタント

タレント・リワードセグメント

 

 

役員報酬関連で2年連続の税制改正となる見込みである。3月決算企業の中には、6月総会に向けてまさに新制度を検討中という企業も多いかと思う。そこで、本稿では、コーポレートガバナンスの文脈において導入の進んでいる中長期のインセンティブ報酬について、損金性という観点から整理を行いたい(*1)

※なお、本稿は経営者報酬に関する情報提供を行うものであり、個別具体的な税務上の助言は必ず税務の専門家に求められたい。

【 平成29年度税制改正の大きな方向性 】
2016年12月に与党より公表、閣議決定されている平成29年度税制改正大綱(以降、「大綱」)では、多様化したインセンティブ報酬をいま一度、現行の役員給与税制の枠組みの中で整理し直すことが企図されている。現行法においては、役員給与を損金算入するためには、定期同額給与、事前確定届出給与、利益連動給与のいずれかの要件を満たすことが必要とされているが、退職給与と新株予約権については別途定めがあり、多くの場合損金算入できるというのがこれまでの役員給与税制の運用であった。しかしながら、今回の大綱においては、退職給与や新株予約権も含め、役員報酬が株価や業績に連動するインセンティブ報酬である場合には、今後は事前確定届出給与か利益連動給与の要件を満たさない限り、損金算入できなくなるという整理になっている。

以降、中長期のインセンティブ報酬について『業績/株価条件の無い株式報酬』と、『業績/株価条件のある株式報酬』に焦点を当てて整理していくが、中長期のインセンティブ報酬と損金性の関係性は今後、下図のようになると想定される。

画像をクリックすると拡大します

図表:中長期のインセンティブ報酬と損金性の整理

図表:中長期のインセンティブ報酬と損金性の整理


【 業績/株価条件の無い株式報酬 】

業績/株価条件の無い株式報酬としては、株式等を直接付与するプランを想定すれば、譲渡制限付株式、通常型・株式報酬型ストックオプション、株式(現金)交付信託・譲渡制限付株式ユニット(ただし、いずれも業績/株価条件の無いプラン)が想定される(図表において灰色で示されているプラン)。これらは今後、事前確定届出給与の枠組みにおいて損金算入の可否が判断される。留意点を5つ挙げたい。

  1. 業績等に応じて譲渡制限が解除される数が変動する譲渡制限付株式は損金不算入
    上記のようなプランは事前確定届出給与の対象から除外する旨、大綱に明記されている(図表において点線で示されているプラン)。このようなプランが利益連動給与の要件を満たす場合に損金算入できるかについては大綱には明記されていないが、損金算入不可と考えられる。
     
  2. ストックオプションも今後事前確定届出給与として整理される
    従来、税制非適格ストックオプションは原則損金算入可能であったが、これからは事前確定届出給与として要件を満たす必要がある。
     
  3. 株式(現金)交付信託における現金支給部分の取扱い
    株式交付部分は事前確定届出給与として整理されるが、現金支給部分については損金算入のためには、利益連動給与の要件を満たす必要があると考えられる。
     
  4. 事前確定の届出免除
    譲渡制限付株式やストックオプションについては事前確定の届出が免除されるが、株式交付信託については届出不要の旨、大綱で言及がなく、届出を要するものと想定される。
     
  5. 損金算入金額
    損金算入金額については必ずしも大綱に明記は無い。しかしながら、昨年度の税制改正における譲渡制限付株式の取り扱いと同様に、今回新たに事前確定届出給与に該当することとされたプランについても、何がしかの上限設定はなされるものと想定される。すなわち、権利確定までの待機期間において株価が上昇し続けたとしても、それに応じて際限なく損金算入できるとは考えにくい。


【 業績/株価条件のある株式報酬 】

次に、業績/株価条件のある株式報酬について整理したい。具体的なプランとしては、パフォーマンス・シェア(PS)、業績/株価条件のある株式報酬型ストックオプション、株式(現金)交付信託(業績/株価条件あり)、パフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)が主に想定される。これらは、先に述べたパフォーマンス・シェアを除けば、いずれも利益連動給与の要件を満たせば損金算入可、満たさない場合には損金算入不可という整理になると想定される(*2)。留意点を2つ挙げたい。

  1. 業績等に応じて付与数や権利行使可能数を変動させるストックオプション
    株式報酬型ストックオプションには、業績等に応じて付与数が変動するプランや、付与したストックオプションについて業績等に応じて権利行使可能数が変動するプランが見受けられた。これらは現行法においては、基本的に損金算入が可能であったが、今後は利益連動給与の要件を満たさなければ損金算入不可となる。
     
  2. 業績/株価条件ありの株式(現金)交付信託
    上記のプランは現行法では損金算入不可(在任時に交付されるプランの場合)であったところ、今後は利益連動給与の要件を満たせば損金算入可となる。


【 制度設計における損金性の意味合い 】

本稿では、中長期のインセンティブ報酬と損金性について、税制改正大綱を踏まえて概要の整理を行ってきた。実際に制度設計や見直しを行う際のポイントを1つあげるとすれば、制度設計における損金性の意味合いを見誤らないこと、だろう。中長期のインセンティブ報酬の目指すところは、株主等の視点に立てば、「その会社の中長期的な成長の後押し」であり、経営陣の視点に立てば、「経営戦略達成へ向けた経営陣のモチベーションの喚起」と言える。こういった目的に優先して損金性ばかりが追及されたり、損金性という観点のみによって制度設計(/商品選択)がなされたり、といった状況は不健全と言えるだろう。

報酬(諮問)委員会の設置も進み、経営者報酬を巡る議論が深まりを見せる中で、各社がどのようなインセンティブ報酬を設計、導入していくのか、今後、注目が集まるところである(*3)


(*1) 税制改正は基本的に2017年4月1日からの適用となるが、退職給与、譲渡制限付株式、ストックオプションにかかる今回の変更(課税が強化される部分)については、猶予期間が設けられ、2017年10月1日以後に支給又は交付に係る決議をする給与から適用とされている。また、本稿は税制改正大綱の記述に基づく執筆時点の見込みや推測も含まれるため、実際の意思決定に際しては、必ず改正法令等を参照されたい。

(*2) 本稿では付与された譲渡制限付株式について業績等に応じて譲渡制限が解除されるプランをパフォーマンス・シェア(PS)、業績等に応じて株式を付与するプランをパフォーマンス・シェア・ユニット(PSU)と呼び分けている。評価期間の始点において付与されるものが現物株式(シェア)であるのか、ユニット(/ポイント)であるのかを明らかにすることを意図している。

(*3) 平成29年度税制改正大綱に関する解説を含め、ガバナンス分野での弊社からの情報発信については弊社ウェブページ「ウイリス・タワーズワトソンにおけるコーポレートガバナンス支援に関する活動」をあわせて参照されたい。


【 執筆者プロフィール 】

小川 直人 (おがわ なおと) 
コンサルタント
タレント・リワードセグメント

中長期のインセンティブ報酬の設計や報酬(諮問)委員会への陪席など、経営者報酬に係るアドバイザリーに従事。また、経営者報酬データベースの編集・分析やその他の各種調査に従事。

日本企業の海外幹部報酬に係るコンサルティングや、グローバル長期インセンティブの導入支援、日本企業による海外法人の買収事案にも多く関与。これまでに対象とした地域は北米、欧州・中東、アジア・オセアニアなど。

ウイリス・タワーズワトソン入社以前は、大手会計事務所にて国際移転価格に係る税務コンサルティングに従事。

東京大学教養学部卒
CFA協会認定証券アナリスト
公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員