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厚母 拓朗

Talent & Rewards

経営者報酬プラクティス
シニアアナリスト




近時、社外取締役に期待される役割や機能は急速に拡大している。経営全般のモニタリングから、より直接的に企業価値の向上を後押しするようなアドバイザリーに近い役目まで、実に様々である。本稿では、多様化する社外取締役の職務実態をどのように評価すべきか、客観的に妥当な報酬水準を検討するための基本的な視点について整理したい。

社外取締役に期待される役割や機能は拡大傾向、その職務実態は多様化しつつある
今年3月に経済産業省より公表された『CGS研究会報告書-実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引-(CGSレポート)』及びその実務指針となる『CGSガイドライン』では、コーポレートガバナンス議論の焦点を「形式」から「実効性」へとシフトさせ、企業価値の向上を促進するための重要な論点の一つとして、日本企業における社外取締役の活用の在り方、社外取締役に期待される役割や機能について、具体的な事例を示しながら明確化された。

【社外取締役に期待される役割・機能の例】(*1)
  • 経営戦略・計画の策定への関与
  • 指名・報酬決定プロセスへの関与
  • 利益相反の監督
  • 株主やその他ステークホルダーの意見の反映
  • 業務執行の意思決定への関与
  • 内部通報の窓口や報告先となること

無論、社外取締役としての職責を問われる主な場面は、監督機能であることに変わりないだろう。しかし、その性質は、企業経営上の法令遵守に対する定点のモニタリングといった「静的」な監督に留まらず、経営戦略の策定やガバナンス体制の構築に係る企業の意思決定への関与、株主との積極的な対話の遂行等、助言提供や情報発信を通じてより直接的に企業価値の向上を後押しするようなアドバイザリーに近い「動的」な監督へと拡がりを見せている。このような時代要請を踏まえ、社外取締役の職務実態も多様化しつつある。取締役会議長や報酬委員長といった会議体の代表を務める場合、規定の会議体に加え任意の経営会議や日々の情報収集に追加的な時間を拘束される場合等々。こうなってくると、対外的には同じ呼称の社外取締役であったとしても、企業のガバナンス体制の在り方や社外取締役に期待される役割や機能の実態によって、職責の性質や大きさ、職責を果たすために必要な時間と労力は、企業毎あるいは個人別に異なることが容易に想像される。


社外取締役の報酬水準は引き続き画一的、職務実態とのギャップが生じる可能性も

社外取締役の職務実態が多様化しつつある一方、その対価として支払われる報酬については、引き続きシングルレートを基本とした画一的な検討が主流である。ある種の固定的な市場価格を形成している「世間相場」を暗黙の目安とし、それと同等であれば、客観的に妥当な報酬水準であると判断する。社外取締役の職責差を反映する手段としては、若干の加算手当を検討する程度の対応が関の山である。しかし、これで本当に充分な検討といえるのか。職務実態はもっと複雑に多様化しつつあるのだ。たとえ報酬水準が同等であったとしても、世間相場を成す他社の社外取締役と自社の社外取締役が担う職責の性質や大きさ、職責を果たすために必要な時間と労力は、必ずしも同等ではないかもしれない。ここに、報酬水準と職務実態のギャップが生じる可能性がある。


社外取締役の職務実態をどのように評価すべきか、客観的に妥当な報酬水準を検討するための基本的な視点とは

では、このようなギャップを生むことなく、客観的に妥当な報酬水準を検討するためには、どのような視点から社外取締役の職務実態を評価すればよいのか。自社はさておき、他社の社外取締役の職務実態を厳密に把握することはなかなか難しい。そこで、客観的なデータとして把握でき、かつその実態を合理的に評価することができる要素に着目したい。ここでは、その基本的な視点として、定性的な評価要素と定量的な評価要素について、簡単に例示する。

  1. 定性的な評価要素 -- 代表者としての付加職責の有無
    取締役会の議長を務める者、報酬・指名・監査委員会(任意も含む)の委員長を務める者、筆頭社外取締役を務める者については、通常の社外取締役に期待される役割や機能に加え、対外的な説明責任の矢面に立つ機会も多く、付加的な職責を担っていると整理できる。報酬水準の検討においても、通常の社外取締役と代表者としての付加職責を担っている社外取締役を区分したうえで比較することが望ましい。

  2. 定量的な評価要素 -- 年間の拘束時間の長さ
    参画する会議体の数や開催頻度によって、年間の拘束時間は異なる。広く一般的にある会議体としては、取締役会と報酬・指名・監査委員会(任意も含む)が想定され、通常、拘束時間が長ければ長いほど、その職責は大きくなると整理できる。具体的な拘束時間の算定が難しい場合には、会議体の年間の開催回数や会議体への出席回数によって代替することも考えられる。報酬水準の検討においても、水準の多寡と拘束時間の長さとの整合性を検証することが望ましい。


最後に

以上、簡単ながら、社外取締役の職務実態が多様化しつつある今、客観的に妥当な報酬水準を検討するためには、その実態をどのように評価すべきか、基本的な視点について整理してきた。今後、社外取締役に期待される役割や機能が拡がるにつれ、各社で増額を伴う報酬水準の見直しが検討されるかもしれない。その際には、巷で報道されているような「世間相場」を鵜呑みにするのではなく、企業規模によっても報酬水準が変わり得ることに留意し、しっかりと比較検証の前提を議論した方がよい。さらには、報酬構成の論点も忘れてはならない。特に、総報酬水準が上がってくると現金支給だけでは不健全になりかねないので、一部を株式で報いるといった対応の検討も必要になるだろう。弊社が毎年運用する経営者報酬データベースでは、社外取締役の報酬水準だけでなく、職務実態を評価するための定性的・定量的な評価要素や報酬構成に関するデータについても個別に集計を実施している。本データベースが、現状把握の取っ掛りとして活用されるのであれば幸いである。


(*1) 『CGS研究会報告書-実効的なガバナンス体制の構築・運用の手引-(CGSレポート)』(経済産業省2017年3月10日公表)より一部抜粋。


【 執筆者プロフィール 】

厚母 拓朗 (あつも たくろう)
Talent & Rewards
経営者報酬プラクティス
シニアアナリスト

2014年ウイリス・タワーズワトソンに入社。大手上場企業に対する経営者報酬コンサルティングとして、インセンティブ報酬を含む報酬制度全般の設計支援やグローバル報酬ガバナンスの整備支援、報酬(諮問)委員会のアドバイザリー業務等に携わる。また、経営者報酬データベースの編集・分析、日米欧CEO報酬の調査等にも従事する。

随時、役員報酬関連記事の寄稿(資料版/商事法務2017年4月号『役員報酬改定議案の事例分析』)、役員報酬関連セミナーにおける講演を務める。ウイリス・タワーズワトソン入社以前は、大手都市銀行にて融資業務等に携わる。  

中央大学法学部卒。