平本 宏幸 

平本 宏幸

ディレクター

Talent & Rewards
 

タレントマネジメントの世界が急速に変化しつつあります。その要因は、事業環境の変化もさることながら、人工知能(AI)に代表される技術革新によるものです。こうした変化を受けて、新たな技術へのキャッチアップにとどまるのではなく、「稼ぐ人材をどう育て活かすか」という本来の目的を達成し、経営に大きなインパクトを与えるためには、どのようなタレントマネジメントが必要になるのでしょうか。本稿では、これからのタレントマネジメントの方向性について論じます。

テクノロジーのインパクト:
近年のタレントマネジメントの分野の根底に流れる大きな潮流は、テクノロジーの進化(特に自動化・デジタル化)です。具体的には、採用時のテキストマイニングや面接回数の最適化、優秀社員の定着率向上などについて、AIによるビッグデータ分析によって最適解を見つけ出す、というアプローチが典型的な例として挙げられます。こうした手法は、AIがより汎用的に使われるようになるにつれて、大企業における採用活動のような大量のデータを扱う業務を中心に、次第に浸透していくことが予想されます。優れたタレントを見抜き、活躍する条件を抽出し、更に定着・活躍するための対処法を予測する、というタレントマネジメントの重要な機能の一部を、次第に計算機が担うようになっていくでしょう。

他方で、テクノロジーによる変化は、人事業務に限ったことではなく、むしろ事業ラインにおいて起きていて、そのインパクトは遥かに大きいと言えます。RPAによるオペレーションの自動化、ロボットの活用による定型業務の代替などの具体的な業務の改革から、高度なスキルを有するエンジニア集団による組織の新設、機械と人との役割分担・業務の再構築やそれに伴うリーダーやコア人材のスキルセットの抜本的な変更に至るまで、業界・会社によって濃淡やスピードに差はあるかもしれませんが、このような多岐にわたる変化が発生してくるでしょう。デジタル化がもたらす事業の変化に人材側からどう対処すべきか、というタレントマネジメントの新たな課題が、次第に顕在化しつつあります。

このような、テクノロジーがもたらす事業・人事双方の大きな変化を受けて、今後のタレントマネジメントには何が求められるのでしょうか。当然のように思われるかも知れませんが、答えはとてもシンプルです。テクノロジーを脅威と捉えるのではなく、むしろ積極的に取り入れながら、目指す構想・事業戦略の実現に向けて「稼ぐ人材を育て活かす」ために解くべき問題を設定し、その解決策を経営・事業に対して発信・提案する、という、本来の仕事を徹底することに尽きるのです。

タレントマネジメントの価値を高める三つの方向性:
ではそのために考えなければいけないことはいったい何でしょうか。大きく三つの方向性から、タレントマネジメントにおいて、事業に対する価値を高めるアプローチを考えてみます。
  1. 機械化 
    一つには、当たり前といえばそれまでですが、人間が得意な分野、機械が得意な分野を切り分け、機械が得意な分野は機械に任せることです。このようなことは、人工知能の登場以前から、例えばインターネットを通じた調査の実施や人材のデータベース化、採用業務の集約・効率化などにおいて行なわれてきていましたので、決して新しいことではありませんが、そうした方向性を更に強めることで、更なるコスト低減・効率化という面でインパクトをもたらします。

    大量のデータを解析してパターン分類する、そこから統計的に最適なパターンを予測する、といった分野は、機械に一日の長があります。ハードの演算能力が高まったことにより、過去においては膨大な時間を要して現実的でないと考えられた方法も、現実的に使える道具として選択肢に入るようになります。多くの人の手を介することなく膨大な作業の実行が短期間で可能になるのなら、それに頼らない手はないでしょう。具体的には、大量のデータが集積しやすい採用時の試験等のデータ解析やその後のトレース結果との相関の分析などについては、専門特化して多くのデータを集めて機械に学習をさせることで、最適な解決に関する予測を抽出する知見が集約される可能性が高いといえます。このような業務については、必ずしも自前で技術を持たなくとも、むしろセンスあるHR tech企業や既存のプラットフォームをどう活用するか、という視点に立ち、社外のリソースの目利きをどう行なうかが、重要となってくるでしょう。

    他方で、「どういう資質を持った人材が自社で成果を出しやすいのか、それはなぜか」「いつどのような経験を経ることが結果として飛躍的な成長につながったのか」という仮説を、事業戦略や事業展開の歴史などの大局的な視点や、個々人のユニークなエピソードからひもといて因果関係のストーリーを組み立てる、という思考については、現時点では人間が勝る分野といえるでしょう。AIは大量のデータから最適なデータを計算して抽出することには長けていても、なぜそれが最適なのか、どういう因果関係があるのかについて仮説を立てて説明してくれるわけではありませんし、データが乏しい場合には的確な予測も困難です。また、そのような、説明が困難となる意思決定を、まさに説明責任という観点から機械にどこまで任せられるのかを考えれば、やはり経営の意思を持って人が担う領域は、十分に残されているといえます。

  2. 高度化・専門化
    そのように考えてみると、二つ目に、人間が得意な分野の高度化・専門化をはかっていくという方向性が考えられます。機械が大量のデータの演算を得意とする一方で、人間が得意な分野とは、新たに問題を設定したり仮説を考えたりするような、創造性や洞察を必要とする領域です。 
  3. 具体的には、経営人材の選抜・開発が典型的な領域として挙げられます。次世代の経営者候補を選び育てるという仕事は、経営者や経営経験の豊富な社外取締役の知見と洞察に基づく、人智を尽くした高度な経営判断です。この判断に資するためのあるべき基準や候補者の評価・判断、事業の方向性を踏まえた更なる成長への洞察を生むには、経営者の知見に加えて、高度に専門化したエキスパートの存在が重要となってくるでしょう。人材開発や動機付け、認知バイアス等のタレントマネジメントにおける専門性が、事業サイドの知見・洞察と組み合わさって、客観的で質の高い議論にたどり着くことができます。経営層のみならず、その候補者となるような優秀な人材の選別・育成に向けた議論や仕組みづくりと合わせて、こうした「人への理解」が求められる機能は、引き続き今後のタレントマネジメントが担うべき中核的な機能となるでしょう。 

    また、事業を人材の面から戦略的に支援する領域も、重要なものとなります。例えば、ある個人が5年、10年かけて身につけたノウハウを、新人でもできるように体系化・標準化あるいは機械化し、組織の知見に転換することで生産性を高めて「働き方」を変えていく、という場面を想定しましょう。その実現のためには、ある卓越した個人の能力やノウハウが、開発可能か、困難(見極めが必要)か、機械による代替が可能か、などをたな卸しするとともに、今後の戦略や重要性に合わせてその開発や標準化の方法を事業リーダーとともに検討し、今後必要な人材のスペックを洗い出す、というような仕事と人材の再設計が求められてきます。そのような中で、新たな働き方や事業の進め方を実現できるハイパフォーマー・ハイポテンシャルを見極め、場を与え、次世代のリーダーとして抜擢するような支援をすることが、重要となるでしょう。

    あるいは、オペレーションを抱える組織において疲弊しがちな人材のモチベーションマネジメントを主たる仕事としていたマネジャーが、仕組み化・機械化とKPIによる定点観測・改善を主たる仕事とするマネジャーに変わっていくことを例にとれば、必要な能力やスキルは自ずと全く異なるものとなっていくことがイメージされるでしょう。テクノロジーの影響によりこれから必要になる人材像の変化に、タイムリーに対応することが求められます。

    また、創造性を要する研究開発の仕事において、事業環境の変化に伴って短期でのアウトプットがより求められるならば、長期で人材を育成することに投資をするのか、初期の段階での見極めの方法論の確立に注力するのかは、研究開発の生産性と事業インパクトを左右する重要な論点となります。あるいは、必要な人材を外から柔軟に調達できる枠組みを作っておくことを優先することも、人材戦略上の有効な選択肢となるかもしれません。

    こうした判断・企画には、事業センスに加えて、人材評価・人材開発に関わる専門性が必須であり、事業の変化が急速に起きる領域において、ますますその重要性が増してくるでしょう。評価制度の企画や運用、研修の企画と実施などの業務のみならず、必要な人材と現状とのギャップを解消するための課題と解決策を事業リーダーに直接はたらきかけ、議論しながら支援をするような機能の重要性が、ますます高まっていくと考えられます。

  4. 人と機械の融合
    三つ目の方向性は、テクノロジーと人の力を融合させながら、技術を活かして更に大きなインパクトを目指す方向性です。人が担っていたことや機械の技術的な制約がハードルとなっていた領域に、新たなテクノロジーを活用することでその限界を超えるとともに、より価値の高い提言やアクションに結び付けようというものです。具体的には、リアルタイムとパーソナライゼーションがキーワードです。

    リアルタイムについては、社員の認識のデータを取得するような組織診断等の現状診断ツールが、テクノロジーの発展により、かなり所要時間を短縮して、場合によってはほぼ即時に結果を把握できるようになることで、結果に基づくアクションを極めて早期に実行することが技術的に可能になってきています。これにより、事業のダイナミックな変動に伴う組織の感情や心理状態を動的に捉えるとともに、そこでの社員のモチベーションやエンゲージメントの状態を最小限の遅れで把握することができ、マネジャーのアクションにつなげることが可能となってくるのです。これらは、昨今話題となっているOne-on-OneやRating-lessによる日々のモニタリング・コミュニケーションと連動させることにより、組織のエンゲージメントレベルを継続的に高めるためのアプローチとして有効となると考えられます。

    また、各種の制度設計についても、データによる効果検証が短期間で行なえるようになることで、ABテストのような、複数の制度を実験的に試してその効果に関するデータを測定し、よりよいものを選ぶ、という方法論も実現の余地が出てきます。人材評価やパフォーマンスマネジメントについて、どのような制度が社員にとってよりよい効果をもたらすかについて、複数のパターンを別々の社員グループに対して試験的に適用し、即座に効果をデータでとることでよりポジティブな反応が強い案を採用する、ということも考えられます。人事の世界においても、いわゆる「アジャイル」に近いようなプロジェクト設計が可能になりつつあります。

    パーソナライゼーションについては、「個に焦点を当てた育成」が主要なテーマとなるでしょう。Coursera(*1)のようなサイトを見るまでもなく、汎用的な知識・スキルについてはすでに世の中に多くの、そしてかなり高いレベルの知見があふれています。そうしたあふれる情報をどうやって個人ごとにカスタマイズして適用していくのか(あるいは自律的な学習を促す方向にシフトするのか)、また創造性や多様性を活かすリーダーシップなどのような、汎用的な知識・スキルの習得では開発困難な能力を、どのような経験を付与することで開発あるいは発掘するのかが、これからの人材開発においてますます重要になっていくと思われます。経験やトラックレコード、パーソナリティやコンピテンシーの診断結果などの様々なデータを用いて各人ごとの強みや課題を分析するとともに、各人ごとの開発方法を一定のパターン認識を通じて機械的に抽出しつつ、人の専門性に基づく判断を組み合わせることができれば、個人にフォーカスした育成プランを効率的に立てることが可能になるでしょう。汎用的な知識・スキルについては各人のニーズに応じて様々な機会を提供できるようにしながらも、個別の課題への対応策をひとりひとりに対してマネジャーや人事が事業特性や専門性をベースに支援するのです。

変革パートナーとしての役割: 
このような変化を事業の現場で実行していくとき、リーダーや社員に対するチェンジマネジメント・コミュニケーションをどれだけうまく行なうかが、ますます重要となるでしょう。新たな動きであるために効果が実証されない中で、ビジョンと意義を伝え、迅速に実行に移すことで成功体験を持たせ、変革への勢いを作りながら組織に浸透させることができるかどうかが、成功の鍵となるでしょう。失敗してしまえば新たなものへの関心が薄れるのみならず、社員の間に不信感がうまれ、改革を全社に推進するにはほど遠い状況に置かれるかもしれません。 

そうならないためには、事業リーダーを巻き込んで一枚岩となり、事業で稼ぐ人材を育て活かすための必要不可欠な取り組みであると認識してもらいながら、事業リーダーの変革パートナーとして二人三脚で進めていくような機能が、タレントマネジメントの推進役として求められてくるでしょう。事業を伸ばすための人の課題を解決する専門家として、様々な局面で活躍の場が広がってくることは間違いありません。

専門性を高度化させながらも、最先端の技術を使いこなし、事業リーダーのパートナーとして経営の価値創造に人材の観点から貢献する、とてもチャレンジングで魅力的な仕事が、これからのタレントマネジメントなのです。 


(*1)https://www.coursera.org/


【 執筆者プロフィール 】

平本 宏幸 (ひらもと ひろゆき) 
ディレクター
Talent & Rewards

入社以来、人・組織に関する課題解決を通じた変革支援のコンサルティングに一貫して従事している。製造業、金融業、サービス業等の幅広い業界に対して、主にリーダー開発支援、経営者指名・後継者計画、グローバル化支援、変革期の制度設計・運用支援等のテーマで豊富なコンサルティング経験を有する。

東京大学経済学部経営学科卒。


【著 書】
《書 籍》
『攻めのガバナンス ~経営者報酬・指名の戦略的改革~』 (東洋経済新報社)

《タワーズワトソン Newsletter - 組織・人事コンサルティング》
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