小西 真木子 

小西 真木子

シニアコンサルタント

Talent & Rewards

 

 

中村 秀隣 

中村 秀隣

シニアアナリスト

Talent & Rewards

 

 

 

<< はじめに >>
今年も3月決算企業の株主総会が始まり、現在、総会開催のピークを迎えつつある。近年は、6月に株主総会を実施する3月決算企業のうち、毎年300から500社程度が役員報酬改定議案を株主総会に付議している。そのうち、長期インセンティブに関連する議案が約半数を占めている。本稿では、昨年6月に株主総会を開催し、役員報酬改定議案を付議した332社の同議案(以下、「調査対象議案」という。)の状況をもとに、まず始めに、株主総会における役員報酬関連議案の概観を紹介し、続いて長期インセンティブ関連議案の付議状況を紹介する。


<< 役員報酬関連議案の概観 >>

指名委員会等設置会社以外の企業においては、取締役の報酬は、定款で定めない場合には株主総会の決議により定めなければならない(会社法361条)。報酬のうち、額が確定しているものについてはその金額を(同条1項1号)、額が確定していないものについてはその具体的な算定方法を(同2号)、金銭でないものについてはその具体的な内容を(同3号)定めることとされている。業務執行を行う取締役の報酬は、一般に、基本報酬、年次賞与、長期インセンティブ、退職慰労金で構成され、これらの報酬を、上記の会社法の定めに従い支給することになる。現行のプラクティスとして最も多いのは、株主総会で取締役報酬の上限金額を決議し、その範囲内で各報酬を支給するというものであり、今回の調査対象議案の大半がこのアプローチをとっている。

年次賞与については、支給の都度、具体的な支給金額を決議するアプローチもみられるものの、近年では上限金額の範囲内で支給するアプローチが増加しており、今回の調査対象議案においても年次賞与を上限金額の範囲内で支給するアプローチに変更する事例が複数みられた。

退職慰労金については、支給の都度、具体的な金額については取締役会に一任するとし金額は明記せずに決議をとるアプローチ(あるいは支給総額のみを明記して個人別配分金額については取締役会に一任するとして決議をとるアプローチ)が多いものの、取締役に対する退職慰労金制度を現在も有している企業自体がそもそも少ないことから、議案を付議するケースも少ない。

長期インセンティブとは、単年度ではなく複数年度にまたがる評価に基づき支給額が定まる業績連動報酬であり、株価と関連付けることが圧倒的に多い。わが国における代表的な長期インセンティブの類型には、ストックオプションおよび信託を利用した類型(以下、株式交付信託)がある。ウイリス・タワーズワトソンおよび三菱UFJ信託銀行が共同で実施した株式報酬の導入状況に関する調査によると、2016年7月から2017年6月末日までの一年間にストックオプションを付与したことをプレスリリースにより発表した上場企業は643社であり、同期間に株式交付信託の導入をリリースにより発表した上場企業は128社であった。これらの類型に加え、2016年以降は株式そのものを報酬として支給することに関する会社法および税務の取り扱いが明確化されたことにより、現物株式も新たな長期インセンティブの類型として加わっている。

<< 長期インセンティブ関連議案の付議状況 >>
長期インセンティブの各種類型を、報酬効果の観点から分類すると、図表1のようになる。長期インセンティブは、まずは株価に連動する制度と、株価以外の業績にのみ連動する制度に大きく分けられる。今回の調査対象企業のうち、長期インセンティブを対象に含んだ報酬議案を付議した企業188社(複数の類型を付与している企業については、類型ごとに1社としてカウント)すべてが株価に連動する制度に関する議案を付議した。

株価連動報酬は、更に(1)株式そのものを渡す(あるいは、それと同等の効果のある)フルバリュー型と、(2)株価の上昇分がゲインとして得られる上昇益還元型とに分けられ、188社の議案のうち180社がフルバリュー型、8社が上昇益還元型の制度に関する議案であった。

図表1:長期インセンティブ

図表1:長期インセンティブ

<< (1) 株価連動のフルバリュー型の類型について >>
フルバリュー型の内訳では、株式報酬型ストックオプション関する議案が24社、株式交付信託に関する議案が88社、現物株式に関する議案が68社であった。

株式報酬型ストックオプションとは、1株当たりの権利行使価額が低廉(通常は1円)に設定されたストックオプションであり、1円という少額を払い込むことで株式を取得することができるため、実質的には株式そのものを報酬として付与することとほぼ同等の効果がある。株式交付信託は、設立した信託を通じて対象者に株式を交付するものであり、対象者には株式交付規程に基づき通常は1株あたり1ポイントのポイントが付与され、一定期間経過後に付与されたポイント数に応じて株式が交付される類型である。

現物株式を用いて株式報酬を付与する方法は、大きく2種類に分類することができる。ひとつは一定期間の譲渡制限(売却制限)がついた株式を付与当初から交付する方法である。もうひとつは、付与当初は1株あたり1ユニットのユニットを付与し、一定期間経過後に付与されたユニットに応じて株式を交付する方法である。

付与時の受領物は、株式報酬型ストックオプションは新株予約権、株式交付信託はポイント、現物株式はユニットもしくは譲渡制限がついた株式、という違いはあるものの、いずれの類型も株式そのものを受領することとほぼ同等の効果がある。そして、いずれの類型においても、業績の達成状況に応じて取得できる株数を変動させる設計にすることができる。

<< (2) 株価連動の上昇益還元型の類型について >>
上昇益還元型の類型に関する議案8社あり、全てが通常型ストックオプションに関する議案であった。通常型ストックオプションとは、1株当たりの権利行使価額が付与時の株価程度に設定されたストックオプションであり、付与時から株価が上昇した場合にのみ、権利行使をして得た株式を市場で売却することにより、株価の上昇分相当のゲインが得られるものである。

<< おわりに >>
今年の6月総会においても、長期インセンティブに関連する議案、なかでも現物株式を用いた株式報酬の導入に関する議案の増加が予想される。株式報酬の普及が進むにつれ、単に株式報酬を導入しているかどうかだけではなく、どのような目的で導入したのか、そして設計内容は目的と照らしてふさわしいものか、という点に株主を始めとしたステークホルダーの注目が集まるだろう。また、長期インセンティブ制度は、あくまで役員報酬制度の一部分であることから、役員報酬制度全体としての自社の考え方(報酬の方針)を示さずして、導入しようとしている長期インセンティブ制度がその企業にとってふさわしいものであるかの判断は難しい。したがい、今後は、参考情報として、自社の報酬の方針を示したうえで、長期インセンティブ制度の設計内容の詳細(例:業績評価指標の有無、指標の種類・変動幅など)を、議案の中、あるいは議案の参考情報として記載していくことが望まれると考えられる。


【 執筆者プロフィール 】

小西 真木子 (こにし まきこ)
シニアコンサルタント
Talent & Rewards

2005年にウイリス・タワーズワトソン入社。入社以来、一貫して経営者報酬コンサルティングに従事し、大手上場企業における、賞与・ストックオプション等のインセンティブ制度を含む報酬制度の設計、報酬諮問委員会の運営支援を行う。近年では、日本企業が買収した海外企業における経営者報酬の運営支援や、グローバル経営者報酬制度の立案、グローバル長期インセンティブ導入なども手掛ける。

早稲田大学法学部卒業。公益社団法人日本証券アナリスト協会検定会員。

【 著 書 】

《 寄稿等 》
資料版商事法務 2018年3月号『役員報酬改定議案の事例分析』
資料版商事法務 2017年4月号『役員報酬改定議案の事例分析』
資料版商事法務 2016年3月号『役員報酬改定議案の事例分析』
旬刊商事法務 2015年8月5-15日合併号『座談会役員報酬の再検証』
旬刊商事法務 2013年7月15日号『日本取締役協会「経営者報酬ガイドライン(第三版)」の解説』
ビジネス法務 2014年2月号『経営者報酬ガバナンス』

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中村 秀隣 (なかむら ひでちか)
シニアアナリスト
Talent & Rewards

2016年にウイリス・タワーズワトソン入社。大手日本企業における経営者報酬制度改革、グローバルLTIの導入支援、国内外の役員報酬ベンチマークに関するプロジェクト等に関わる。また、経営者報酬データベースの運営・分析にも従事。

東京大学文学部卒。同大学人文社会系研究科修士課程修了。

【 著 書 】

《ウイリス・タワーズワトソン 人事コンサルティング ニュースレター》
2018年04月 EU株主権利指令の改正に伴う経営者報酬への影響