Towers Watson Media 

高岡 明日香 

シニアコンサルタント

タレント・リワード セグメント
組織人事部門

 

一橋大学大学院国際企業戦略研究科研究科長として教壇に立つ傍ら、株式会社シマノ社外取締役、パナホーム株式会社社外取締役、株式会社電通国際情報サービス社外取締役、IFIファッションビジネススクール学長をつとめられる一條和生教授に、「ガバナンスにおける要諦」というテーマでインタビューさせて頂きました。

【一條和生教授 略歴 】 
一條 和生(いちじょう かずお)。一橋大学大学院国際企業戦略研究科研究科長、 同教授、IMD(スイス、ローザンヌ) Adjunct Professor(兼任教授) 専攻は組織論(知識創造論)、リーダーシップ、企業変革論。 一橋大学大学院社会学研究科、ミシガン大学経営大学院卒、同大学経営学博士。

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主な著書として、『バリュー経営:知のマネジメント』、東洋経済新報、1998年 (日本経営協会、1998年度経営科学文献賞、日本ナレッジ・マネジメント学会、 1998年度第1回学術賞、日本公認会計士協会、第11回中山 MCS基金賞、受賞)、 『Enabling Knowledge Creation: How to Unlock the Mystery of Tacit Knowledge and Release the Power of Innovation (with Georg von Krogh and Ikujiro Nonaka) 』, Oxford University Press 2000(2000年度、全米出版協会、最優秀ビジネス書賞受賞。翻訳として、ゲオルク・フォン・クロー、一條和生、野中郁次郎『ナレッジ・イネーブリング:知識創造企業への五つの実践』東洋経済新報社、2001年9月)。『シャドーワーク 知識創造を促す組織戦略』(徳岡晃一郎と共著)、東洋経済新報社、2007年。『企業変革のマネジメント』(NTTデータと共著)、東洋経済新報社、2008年、『MBB:「思い」のマネジメント』(徳岡晃一郎、野中郁次郎と共著)、東洋経済新報社、2010年。『リーダーシップの哲学』、東洋経済新報社、2015年。


<< WTW 高岡 >>
昨今日本企業においては、不正会計処理、お家騒動、燃費データ改竄が後を絶ちません。相対的に見ると、米SOX法、英改定版ターンブル・ガイダンス以降の欧米企業のそれより頻発している印象がありますが、こうした日本企業の現象について、ご意見、特に背景にある原因についてどのようにお考えですか。

<<一橋大学 一條教授 >>
3つくらい要因があると思っています。1つには経営者の資質の問題、2つめには、会社としてのシステムの問題、3つめには、倫理というものが日本の企業の中にしっかりと重要な価値観として根付いているかどうかといった問題があると思います。

少し話が飛ぶようですが、私はパナソニックの経営者育成プログラムを担当させて頂いており、先般その中で松下幸之助氏のビデオを拝見しました。1973年頃、松下幸之助氏数え年80歳で会長職を辞し、相談役となった翌年の講演で「私の経営観」というテーマでした。松下氏は、「経営者にとって一番難しいのは、『私』(わたくし)を殺すことです」と語っていました。当時81歳でいらしたわけですが、「今この歳になっても、なにか松下のためにやろうとすると『私』がでてきてしまう。この『私』を殺すことが経営者にとって一番難しいのです」と語っていたのです。一連の不祥事といった問題では、経営者の資質が一番根深い問題なのではないでしょうか。誰もが「会社のため」に動いてはいるとは言うものの、根本のところの『私』が消えない、自己保身であったり、自分のやりたいようにとか、自分の名声を築きたいとか、やっぱり『私』の要素がそこに出てきてしまう。これこそが根深い問題なのだと思います。松下幸之助氏をもってしても80歳になっても尚乗り越えることが難しかったことを鑑みると、経営者のあるべき姿の難しさという問題に行き着くように思います。

2つめのシステムの問題についてですが、燃費データの問題等が、適切なチェックプロセスをすり抜けてしまったこと、会社として他部門をチェックする仕組みがないかったこと。大会社において隠避ができてしまうような構造的な問題が存在していることは、相当深刻です。

最後に3つめの、倫理感がどれくらいしっかりと会社に根付いているのかといった点も看過してはならないと思います。私はGEからずいぶんいろんなことを教えてもらいました。もちろん大学の先生からも多くを学びましたが、GEからは実にたくさんのことを学んだのです。私のミシガン時代の恩師がジャックウェルチの懐刀だった人だったこともあって、私も1996年頃からGEと深く仕事をしてきました。彼らは常々「もし倫理に反したなら、『ワンストライクアウト』だ」と言っていました。一回でも倫理違反をおかしたら、それでおしまいというわけですね。日本ではどうでしょう。今でも、ワンストライクアウトになっていない会社があるのではないでしょうか。倫理というものが大事だ、大事だと言われつつも、本当に重要な最重要価値観として根付いていないのではないでしょうか。

<< WTW 高岡 >>
一條先生は、多数社において社外取締役を務められていますが、ガバナンスの観点で昨今の日本企業において重要なテーマ・懸案事項はどのあたりだとお考えでしょうか。

<< 一橋大学 一條教授 >>
カルビーの社外取締役を拝命した際の最初の取締役会が印象的でした。当時のカルビーは非常に画期的なガバナンス体制を作っていました。ファミリーカンパニーから上場企業になるにあたって、創業家は経営から退かれ、8人の取締役の内7人が社外という体制を作られました。生え抜きは社長一人だけという体制でした。当時キッコーマン会長だった茂木氏と一緒に社外取締役を務めていましたが、茂木氏が最初の取締役会で仰ったことを今でもよく覚えています。「よく社外の人間には会社のことなんて分からないという人がいますが、社外の人間に分からないような経営をやっている会社は駄目なんです」と。これはけだし名言であって、まさに、社外の人間に分からないような、不透明で不可思議な経営をやっているような会社はそもそもガバナンスの観点から失格なのです。

日本企業の一つの大きな問題点は、企業活動にかかわる様々なことが暗黙知のまま放置されていて形式化されていないことにあると思います。暗黙知はイノベーションの源泉でもあるのですが、日々の実践を暗黙知のままにしておくと、間違ったことや属人的なこと、過去の一局面で正しかったようなことが、永遠普遍の真理となってしまうリスクがあります。だかこそ、暗黙知が強い日本企業にこそ、社外の目から客観的にチェックするような仕組みを導入することは不可欠だと思います。そのためには暗黙知の形式知化が不可欠だからです。その結果、自分達の良さに気づくこともあるし、問題点も見えてくることでしょう。まさに暗黙知の形式化こそガバナンスの徹底には不可欠な要素だと思います。我々社外取締役が、暗黙知の形式化を手伝うことができると思います。

また、日本企業の大きな課題のひとつに、真の経営者を育ててこなかったことがあるように思います。日本企業の社長の多くは、事業担当役員の延長線上に社長になっていらっしゃるようにお見受けします。その弊害がいろんなところででてきているのではないでしょうか。世界的に大変革がおきている中にあって、従来の延長線上にはないような意思決定をしていかなくてはならない。つまり、場合によっては自分達の事業部門をなくすといったような決断もしていかなくてはならない。こうして事業ポートフォリオの大きな転換をしていかねばならない、ゲームのルールを変えていかねばならない。こうした決断は、事業担当役員の延長線の発想ではなかなか困難です。自分達のやっていることを経営レベルで客観的に分析できる能力がないと、暗黙知の形式化はできないし、暗黙知が永遠普遍の真理になってしまうリスクがあります。これは結構深刻な問題で、真の経営者を作っていくための新たな取組みを試みないと、変革に繋がっていかないと思います。

<< WTW 高岡 >>
真の経営者を育成するという上での、有効な方法論としてはどんなところでしょうか。

<< 一橋大学 一條教授 >>
自分の出身事業・得意な職能以外の分野を経験することです。小さくても子会社の経営も有効でしょう。経営者は、PL・BS・幅広い事業ポートフォリオを包括的に考え、マネージしていく必要がある点で、事業トップとは考える尺度が全く違うでしょう。この経験のない人がいきなり経営者となるハードルは非常に高いと思います。素晴らしい成功例としては、日立の中西会長が、かつて米国においてハードディスク事業を立て直した経験をもちながら、なんと社長に就任後、その事業を売却されました。ご自身が必死になって立て直した事業を売却したその決断には、中西会長が真の「経営者」であることが伺えます。

社外取締役は企業の持続的成長に大きく貢献するものですが、一方の経営者育成方法も変えていかないと、パラダイムシフトは起こりづらいですよね。

<< WTW 高岡 >>
コーポレートガバナンスの強化を進める上でのキーは、つまるところ「いかに外の目を増やして透明性を高めるか」というかと思います。社外取締役が、モニタリングの役割を果たしていく中で、今後更に拡大、強化できる領域、或いは現状の構造的な課題や限界について、お考えをお聞かせください。

<< 一橋大学 一條教授 >>
それぞれの会社がどういった意思決定の判断基準をもっているかがひとつのキーですよね。誰々がやりたいからやっているという事例も見聞きします。もちろん個人の熱意も重要ですが、やはりしっかりした会社というのは、どういう判断、考え方に基づいて経営者として判断するのか、というのが明確になっていると思います。例えば花王においては、「商品開発五原則」というものが徹底されており、自分達はどういうものを市場にだしていくのかという点について明確な判断基準があります。しかも澤田社長が素晴らしいのは、「商品開発五原則」に加え「花王WAY」に体系化された考え方を、自ら全世界を回りご自身の口からラウンドテーブルミーティングで共有していらっしゃることです。経営者として迷った時には、常に花王の原点に戻って判断すれば間違いはないというご自身の信念に基づいた行動です。だから花王の原点を、全世界の社員に分かってほしいのだと考えられている。しかもそれを自分の言葉で伝える。このあたりがしっかりされている会社は行動にブレがないですよね。

<< WTW 高岡 >>
判断軸とトップのコミットメント、コミュニケーションですね。

<< 一橋大学 一條教授 >>
そうですね。澤田社長が海外でラウンドテーブルをされる際には、午前、午後と2時間、8人を招いてセッションを行うそうです。既に全世界で2ラウンド目をされているとのことです。ある時私が、「澤田さんよくそんな時間ありますね」とお伺いしたら、面白いエピソードを話してくださいました。長年、花王で取締役会等の前に必ず行われていた、社長への事前伺いミーティングをやめて時間を作られたそうなのです。かなりの時間がそれで空いたそうです。しかし事前伺いミーティングは長年の習慣だったので、いきなりゼロにしてしまうのも問題だろうと、少しだけミーティングのスケジュールをとっておいたのですが、ふたをあけてみたら誰も来なかったとのことです。澤田社長がこのような決断をされた背景には、徹底して会社の原点を社員に浸透させ、役員の間で自由な議論が徹底されていれば、会議の数はぐっと減らせるとの信念があり、実際にそうだったわけです。普段の役員会で徹底したコミュニケーションがとれていれば、おかしいものが出てくるわけはないという信念と信頼です。素晴らしいですね。また花王は社外の方とのコミュニケーションも活発なようです。澤田社長は、社外取締役、社外監査役とものすごく深いディスカッションをやっておられ、半日かかるのはざらのようです。そこまで深い議論をしている企業がどれくらいあるでしょうか。

<< WTW 高岡 >>
昨年適用されたコーポレートガバナンスコード以降、「指名(諮問)委員会設置」の動きが急速に進んでいます。一方、プロセスや社外役員の役割など、まだまだ明確なプラクティスは確立されていないようです。特に指名について、社外取締役がどのように関与すべきかが議論になることも多いですね。社外取締役として実務に携われているご経験を踏まえて、日本企業における、経営者指名に関する課題や今後強化すべき点について、ご見解をお聞かせください。

<<一橋大学 一條教授 >>
やっていかなくてはいけないですよね。後継者候補がこれまでどういうキャリアを辿ってきたかの情報共有に加えて、「チャレンジに直面させること」も重要ですね。この点でもGEは優れています、現在のジェフ・イメルト会長兼CEO選出の前には、イメルト社長を含めて社長候補者が3人いましたよね。3人にチャレンジが与えられ挑戦させ、どう乗り越えていくかプロセスをみて、最終的に一人に絞ったわけです。

<< WTW 高岡 >>
指名領域において質と量の両面について十分な情報が社外取締役に提供されていますか。

<< 一橋大学 一條教授 >>
大事なのは、形式知、つまりそれまでの業績などのデータに加えて、その人が現場でどうチームを率いているのかなど暗黙知をも含めてきちんとみていかないと、適切な評価は難しいと思います。私は経営者教育をよく担当していますが、教育の最後に「今回の研修で良かった人を3人選んでください」としばしばフィードバックを求められます。「教育と評価は全然別だし、人間の能力の出方には色んなパターンがあるのだから、単純に1回の研修だけで評価するのは危険です」と申し上げた上で回答しています。これと同様のことが、経営者の後継者選定でもいえると思います。やはり指名委員会において形式知として共有されていることが、どれだけその人の全体像を示しているかを慎重に見る必要があります。その人が職場の中においてどんなマネジメントを行っているか、非常に暗黙的だけれども、その人が来ると職場のみんながどんな顔になるか、などの情報も人物評価には不可欠でしょう。

<< WTW 高岡 >>
指名委員会の審議事項として、選任のみならず、選解任を対象とすべきとの議論もありますが、こちらについては、現状のreadiness含めどのようにお考えでしょうか。

<< 一橋大学 一條教授 >>
選解任の審議対象とするか否かについての議論については、必要十分な情報が共有されているという前提が担保された上で、解任もあってやむなしと思います。また解任まで行かなくても、社長のパフォーマンス評価を社外取締役に依頼する企業があります。事業目標に対してCEOとしてのコミットメントを出している、その達成率を見るという評価です。

<< WTW 高岡 >>
昨年適用されたコーポレートガバナンスでは、取締役会評価の実施が推奨されましたが、取締役会評価については、まだまだこれからですよね。現状、取締役会評価に対する日本企業の考え方、懸念はどんなところにあるのでしょう。また今後更に取締役会評価が進むために有効なドライバーはなにか、どんなボタンを押すべきなのか、ご意見をお聞かせください。

<< 一橋大学 一條教授 >>
評価は必要だと思います。評価しないと問題点も出てこない、改善点もでてこないわけで、評価を抜きにした機関はないですよね。我々も授業で学生から評価を受けることで何が良かった悪かったかを認識するわけです。機能したかどうかについてはあらゆる機関が評価すべきかと思います。

特に今後については、世界の評価にさらされるというのが重要です。いろんな面でのダイバーシティを入れていかないといけない、文化的、民族的バックグラウンドの考え方の違い、経験の違いを持った人を含めていくことで、自分達のGroupThink (同じような発想に偏ってしまう傾向)等も避けられるでしょう。更なるダイバーシティは大切な課題だと思います。

<< WTW 高岡 >>
最後に補足されたいことはありますか。

<< 一橋大学 一條教授 >>
自分のことは棚に上げて申し上げますと、社外取締役になる人の資質も問われないといけないと思います。勿論今やっていらっしゃる方がそうした資質があるないを言っているのではないです。本当に経営を見る目があって役割を務めているのか、何か権威ある方とか、どこどこに勤めた方とかということだけで選任してはまずいのではないかと思います。社外取締役においてもプロフェッショナリズムが求められます。例えば、The Financial Timesには社外取締役を育成するプログラムがあるそうです。昔社長をやっていたから社外取締役として活躍するとは限らないと思います。寧ろ社長としての成功体験が足を引っ張る側面もあるかもしれませんよね。真のプロフェッショナルとしての社外取締役をどう育成するかも今後の課題かと思います。


▓ 執筆者プロフィール

高岡 明日香 (たかおか あすか)
シニアコンサルタント
タレント・リワード セグメント 組織人事部門

コーポレート・ガバナンスプラクティス主要メンバーとして、取締役会評価、指名委員会設立支援及び運営支援等を担当。欧州及び日本において、社長・後継者計画(サクセッション・プラン)、取締役会評価、経営層アセスメント、360度調査、コンピテンシー設計、リーダーシップ開発に従事。組織コンサルティング領域においては、PMI (Post Merger Integration)、グローバル組織改革等を専門とする。

ウイリス・タワーズワトソン入社以前は、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京オフィス、フランクフルトオフィスを経て、ラッセル・レイノルズ・アソシエイツロンドンオフィス、東京オフィスにて勤務。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科卒。同大学院博士後期課程在学。
英国心理学協会、Saville、Hogan、OPQ認定アセスメントコンサルタント

【 著 書 】
《ウイリス・タワーズワトソン 人事コンサルティング ニュースレター》

2016年10月号 一橋大学クリスティーナ・アメージャン教授に「ガバナンスの今」を伺う