Towers Watson Media 

高岡 明日香 

シニアコンサルタント

タレント・リワード セグメント
組織人事部門

 

一橋大学大学院商学研究科教授として教壇に立つ傍ら、現在三菱重工株式会社、株式会社日本取引所グループにおいて社外取締役をつとめられるクリスティーナ・アメージャン教授に、「コーポレートガバナンスの今」というテーマでインタビューさせて頂きました。

クリスティーナ・アメージャン教授 略歴  
専門研究テーマは、コーポレート・ガバナンスや、グローバリゼーション、資本主義システム、企業グループ、日本のビジネスおよび経営。American Sociological Review, Administrative Science Quarterly, Organization Science, California Management Reviewなど国際専門誌への執筆多数。組織行動や、コーポレート・ガバナンス、ビジネス・リサーチ、リーダーシップ、国際経営等を教える。

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ハーバード大学卒業、スタンフォード大学ビジネス・スクール経営学修士課程修了、組織行動と労使関係においてカリフォルニア大学バークレー校ハース・スクール・オブ・ビジネスの博士号を取得。コロンビア大学ビジネス・スクール助教授を経て、2001年に一橋大学大学院国際企業戦略研究科の助教授、2004年に同教授、2010年に同研究科長、2012年に現職。ベイン・アンド・カンパニーと三菱電機において民間企業の勤務経験を持つ。エーザイ株式会社(2009年6月‐2013年6月)、三菱重工業株式会社(2012年6月‐現在)、株式会社日本取引所グループ(2014年6月‐現在)の社外取締役を務める。国籍は米国。日本在住20年。


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アメージャン教授は、長年「東アジアのコーポレートガバナンス」を研究されていますが、東アジア諸国の状況と比較したとき、日本のガバナンスの現状について、顕著な特徴はどのあたりでしょうか。

<< 一橋大学 アメージャン教授 >>
韓国については、アジア金融危機以降、非常に速いスピードでコーポレートガバナンスを進める機運が盛り上がりました。IMFからの支援によるところが大きいことは当然ながら、加えてガバナンス及び各種改革に積極的であった多くのアカデミアや政府高官が牽引しました。一方この時期、日本では何の動きも見られませんでした。しかしその後、両国の事情は大きく変わったのです。韓国におけるガバナンスの発展は停滞し、企業は改革に苦しみ、政府も一旦それらを放置したかのように見受けられました。

他方日本においては、長らくガバナンス関連の動きはみられなかったのですが、2-3年前から一気に潮目が変わりました。安倍政権が、コーポレートガバナンスの推進にコミットしたからです。もし5年前に尋ねられたら、「日本のガバナンスは他のどのアジア諸国よりも遅れている」と答えましたが、今日の日本はアジアにおけるガバナンス先進国のひとつといえるかもしれません。シンガポールには厳格なコーポレートガバナンス法があり、企業のプラクティスも進んでいます。香港も同様です。日本がこれに続いているという認識です。

何よりも日本人は「真面目」です。一旦「やるべき」という共通認識が形成されると、企業は動きますね。そうした環境下での徹底度合いは、他のどの国にも劣りません。日本企業は一般的に「これは何を意味するのか」「しかるに我々は何をすべきか」ということを真剣に考えて実行していると思います。

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コーポレートガバナンスの強化を進める上での要諦は、「外の目を増やして透明性を高める」ことかと思います。その主体が、株主やメインバンクからのプレッシャーであったり、社外取締役の役割強化であったり、第三者による取締役会評価となるかと思います。アメージャン教授は複数の社外取締役を担っておられますが、社外取締役がモニタリングの役割を果たしていくうえで、今後更に強化できる領域、或いは現状の課題や限界についてお考えをお聞かせください。

<< 一橋大学 アメージャン教授 >>
現状、社外取締役側、企業側の両者に多くの課題があります。例えば東芝の例を見てみると、企業が不正会計処理をする意図を持った場合、社外取締役の存在に関わらず、やるわけです。社外の人間がそれを発見することは非常に困難です。しかるに最も重要なのは、社長が厳にガバナンスにコミットすることです。社長のコミットが十分でない中で取締役会が果たせる役割には限界があるでしょう。社外取締役が過半数を占める取締役会が通例である米国や英国とは異なり、日本における1社あたりの社外取締役はせいぜい2-3名です。そのような環境下では、企業としてのつまりは社長のコミットが不可欠なのです。加えて、優秀な取締役会事務局が必須です。質量ともに必要十分な資料を取締役会メンバーに提供し、適切なアジェンダを設定し、内部監査をクリアする運営が必須です。こうした一連の動きが有機的に機能して初めて、社外取締役が本来の役割を適切に果たせるように思います。

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日本における社外取締役は、社外取締役として正しい判断をするために十分な情報、(質・量ともに)を入手している状況でしょうか。

<< 一橋大学 アメージャン教授 >>
企業や審議事項により大きく差があるように思いますが、昨年のコーポレートガバナンスコード適用以降、加速度的に充実したような感覚があります。

一方で、社外取締役はどこまで行っても「アウトサイダー」です。その企業で一生過ごしてきた人間と同レベルの情報は入手し得ないわけです。但し、議案によってはそれが求められるケースが発生します。例えば指名の局面において、社外取締役は、候補者の背景情報や社内における人望等の情報は持ちえません。社外取締役の果たすべき役割は、「候補者Aのことは良く知ってるよ、彼こそが適任だ」と発言するよりも寧ろ「選任プロセスは適切であったか、社長の後継者計画(サクセッション・プラン)は正しく規定・運営されているのか」といった適切な投げかけを行うことに意義があると思います。もちろん、社内政治の機微や企業文化について深く理解すればするほど、より良い貢献ができるのは世界共通ですが、なかなか難しいですね。

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昨年適用されたコーポレートガバナンスコード以降、特に規模の大きい上場企業において「指名(諮問)委員会設置」の動きが加速しています。一方、プロセスや社外役員の役割など、実務的なプラクティスの完成はまだまだ過渡期のように見受けられます。

特に、最高経営責任者および業務執行役員の指名について、候補者の情報を十分に持たない社外取締役がどのように関与すべきか、社外取締役として実務に携われている経験を踏まえて、日本企業における経営者指名に関する課題についてご見解をお聞かせください。

<< 一橋大学 アメージャン教授 >>
指名のプロセスは文字通り、日本企業における中核的な課題といえるでしょう。ガバナンスの中心に「指名」の課題があると言っても過言で無いかもしれません。セブン&アイ・ホールディングスや大戸屋ホールディングスの案件の根底には指名プロセスの問題があったと思います。日本企業においては、社長は自身の後継者を指名できる、或いはそれが社長(会長)の責務であるという考え方があるように思います。完全に取り除くことは難しいですが、これこそが日本的経営において透明性が欠如しがちである象徴的な理由かもしれません。多くの日本企業においてローテーション人事が行われ、キャリアプランもなく幹部候補養成も徹底されていない中、「何となく」トップが選ばれますよね。全員が空気を読み、匂いを嗅ぎながら、順番に役割を担っていくようですね。

東芝では、社長が自身の後継者を選択したわけですが、これにより両者の間には他には入り込めない深い人間関係が構築されました。日本ではこのような相互補助システムが重要であり、ゆえに危険なのです。だからこそ指名委員会の存在が重要です。そしてそこでは、社外取締役が過半数を占め、プロセスの是非について問い、後継者計画の妥当性を問うことが期待されます。日本企業の経営者が、自社について十分な情報を持たない外部の人間にとやかく言われることを懸念するのはよく理解します。事実社外取締役がひどい決断をすることもあります。社長と社外取締役と他取締役会メンバーが一体となり「最も適切な人間が企業経営をする」ことを担保するための「最適な方法」を選択すべく議論を続けることが重要です。ゆえに、特に日本企業において、指名委員会の存在が不可欠なのです。

指名委員会のもうひとつの役割は、後継者計画(サクセッション・プラン)、社長の選解任ですよね。こちらにおいても、明確なプロセスと透明性が必要要件かと思います。社員が社長の解任に投票することは非常に困難ではありますが、指名委員会が担うべき重要な役割であることには間違いないわけです。日本において社長の選解任は、まだまだ緒についたばかりですが。

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また「取締役会評価」については、まだまだこれからという状況です。「コーポレートガバナンス先進国」といわれている英国で取締役会評価が通例化している背景には、もの言う株主からの強烈なプレッシャーに加えて、強制するコードに拠るところが大きいことは言うまでもありません。現状、取締役会評価に対する日本企業の考え方はどんな状況でしょうか。また今後更に取締役会評価が進むためには、何がドライバーになるか、ご意見をお聞かせください。

<< 一橋大学 アメージャン教授 >>
ガバナンスコードでは推奨されていますが、取締役会評価を望んでやる企業は少ないでしょう。なぜしなくてはならないのか、何をすべきなのか、検討している段階だと思います。ただ私が感心するのは、取締役会評価を実行した企業においては、評価結果からの示唆が即座に実行されていることです。私が社外取締役を務める日本取引所グループ、三菱重工業においては、幾つかのプロセスが確実に改善し、アクションがとられ、取締役評価のプロセス自体がガバナンスを前に進める機会となりました。取締役会評価を実施した効果は素晴らしいものでした。

第三者が評価すべきかという点については、私は賛同しません。理由は、日本企業はなににおいても「文書化」に注力するあまり、それが完了した時点で満足してしまう傾向があるからです。最も避けるべき事態は、第三者が評価結果を文書化し、非常に専門的なプレゼンテーションを行い、その後何も起こらないことです。まず議論し、自らが改善のために動き、どう変わるかをみることの方が、遥かに有益だと思います。自身で評価し、実行することが先決であるという趣旨です。米国や英国において実施されている第三者による取締役評価の手法は、現時点の日本企業においては高度すぎ、ミスマッチです。全員で机を囲み、インフォーマルな議論から始める「Do it yourself」を強く推奨する次第です。

もうひとつの問題は、未だ取締役評価は、必要以上の「恐れ」をもって受け止められているということです。そもそも優秀な社外取締役の確保が極めて困難な現状において、漸く就任頂いた社外取締役に対して「今からあなたを評価し、かつ360度評価もしますよ」というのは、文化的には未だなじまないように感じます。

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最後に補足されたいことはありますか。

<< 一橋大学 アメージャン教授 >>
重要なことは、とにかく実行し、完璧にはいかないことを認識するところから始めましょうということです。昨今書店には膨大なガバナンス理論が並び、我々の多くは十分な知識を授けられていますが、これからは実行のときです。ガバナンスは人が主体であり、自社の将来について真剣に考え意思決定する人間活動の集積結果です。ゆえに、とにかく議論を継続していくことが極めて重要なわけです。

ダイバーシティの問題もあります。性別のみならず、国籍の多様性が必要です。今日本に、外国籍の社外取締役が何人活躍しているでしょうか。日本人であれ非日本人であれ、真にグローバルな視点をもった社外取締役が更に増え、企業発展に貢献することを期待します。

最後に取締役会メンバーのトレーニングも必要でしょう。取締役会メンバーとして適切な貢献を果たすため、基本的な役割を理解するだけでなく、財務指標の見方、経営戦略や人事戦略等を理解し議論するといった技術的なスキルについてもまだまだトレーニングが必要かと思います。


▓ 執筆者プロフィール

高岡 明日香 (たかおか あすか)
シニアコンサルタント
タレント・リワード セグメント 組織人事部門

コーポレート・ガバナンスプラクティス主要メンバーとして、取締役会評価、指名委員会設立支援及び運営支援等を担当。欧州及び日本において、社長・後継者計画(サクセッション・プラン)、取締役会評価、経営層アセスメント、360度調査、コンピテンシー設計、リーダーシップ開発に従事。組織コンサルティング領域においては、PMI (Post Merger Integration)、グローバル組織改革等を専門とする。

ウイリス・タワーズワトソン入社以前は、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京オフィス、フランクフルトオフィスを経て、ラッセル・レイノルズ・アソシエイツロンドンオフィス、東京オフィスにて勤務。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科卒。同大学院博士後期課程在学。
英国心理学協会、Saville、Hogan、OPQ認定アセスメントコンサルタント