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黒岩 祐未

シニアアナリスト

Talent & Rewards
経営者報酬プラクティス

 

 

現物株式報酬制度の解禁や信託型株式報酬プランの普及の流れを受け、近年、株式報酬制度を導入する企業が増加しており、中長期インセンティブは日本の経営者報酬において定着しつつあると言えよう。導入企業の増加に伴い実務対応も増えており、状況に応じ様々な対応が求められている。本稿では、最新の株式報酬調査結果と日々の検討において挙がっているトピックについてご紹介したい。

株式報酬制度の導入状況
当社では、全上場企業を対象とする株式報酬の付与もしくは導入の状況に関する調査を毎年おこなっており、本年は8月21日に調査結果 (*1)をプレスリリースとして配信した。今期は1年間に643社(前年:628社)の企業がストックオプション(通常型ストックオプションおよび株式報酬型ストックオプション)の付与をプレスリリースにより発表しており、調査開始以降、継続して本年も増加している事実を確認した。信託型株式報酬プランや、昨年4月に事実上解禁された現物株式報酬制度についても導入する企業数は伸びており、それぞれ累計でみると、信託型株式報酬プランは545社(前年:376社)、現物株式報酬制度は130社(前年:6社)となり、いずれも増加傾向が見られた。時価総額の上位100社ベースでは、これまでのストックオプションから信託型株式報酬プランや現物株式報酬制度への移行も一部見受けられた。

退職慰労金の置き換えとしてこれまで主流だった株式報酬型ストックオプションのほか、信託型株式報酬プランや現物株式報酬制度が加わり、制度を導入する企業が増加したと考えられる。また、平成29年度税制改正も導入を後押しした要因のひとつと考えられる。中長期の業績や株価等に連動する株式報酬の損金算入要件が整備され、株式報酬の種類ごとの税制上の差異がほぼなくなったことで、企業による制度検討時の負担は軽減したと見てよいだろう。

開示の強化
上述の税制改正では、例えば業績条件の付いた株式報酬の場合、一定の手続きを経ることや有価証券報告書等における報酬の算定方法に関する開示要件を満たすことを条件として、法人税法上の業績連動給与としての損金算入が可能となる。そもそもコーポレートガバナンス体制の実効性の強化を背景として、積極的な情報開示が企業に求められる地合いもあって、今後、経営者報酬に関する開示は益々進むだろう。開示強化の流れにおける実務対応としては、市場の傾向や他社の事例をやみくもに自社制度へ汲みこむのではなく、経営戦略を軸とした、自社独自の報酬方針や水準の設計が必要になるだろう。

国内非居住の役員への株式付与
また、株式報酬制度が重要視されはじめたことで、報酬制度のグローバル展開を検討する企業も出てきている。株式報酬制度は着実に定着しつつある一方、外国人役員や海外駐在者をはじめとする国内非居住の役員に対する株式の付与は、口座開設の観点等から現段階ではハードルが高いと認識される傾向にある。そのため、当該対象者へ株式の付与をおこなう企業はごく少数で、多くの企業はそのハードルを回避するために同等の金額を現金で支給するほか、ファントムストックやSAR (*2)等の金銭報酬を導入して対応している。この場合、そもそも株式報酬であるにもかかわらず株式保有ができないというジレンマが生じてしまう。加えて、国内居住者を対象とする株式付与による報酬制度と国内非居住者を対象とする金銭支給による報酬制度が並存することになるため、グループ共通の報酬制度とはならず、また、税務上の取扱い等追加の実務が発生する。このように、株式報酬のグローバル展開は、現状企業が直面している課題のひとつと言えよう。

今後期待される動向
コーポレートガバナンス改革の流れを汲み、株式報酬制度を導入する企業は今後も増加していき、そのボリュームや総報酬に占める割合も高くなっていくと考えられる。導入企業数やボリュームが増加していくことで、制度内容や運用実態について株主等ステークホルダーの関心もさらに高まり、開示における制度の客観性や透明性の担保は益々重要視されていくだろう。また、現状の課題として認識されている国内非居住者への株式付与にかかる実務対応についても、さまざまな障壁を克服すべく現在一部の企業が進めている努力の結果、グローバルな株式報酬制度への道筋が開ける可能性もあり、今後の進展が期待される。


(*1) 2017年8月21日付当社プレスリリース『株式報酬の導入状況』

(*2) Stock Appreciation Right:株価上昇分のゲインを現金で受給する権利を付与する制度


【 執筆者プロフィール 】

黒岩 祐未 (くろいわ ゆみ)
シニアアナリスト
Talent & Rewards
経営者報酬プラクティス

国内大手上場企業における経営者報酬コンサルティングとして、インセンティブ制度の設計支援や、国内全上場企業のストックオプション導入概況調査、および経営者報酬データベースの編集・分析に従事。日本企業の海外幹部報酬に係るコンサルティングやグローバル長期インセンティブ制度の導入にも関与。

慶應義塾大学文学部人文社会学科卒