高岡 明日香 

高岡 明日香 

アセスメントプラクティス
アジア地域リーダー

Talent & Rewards

2017年度に不適切会計・経理を開示した上場企業は64社にのぼり、東京商工リサーチ社の調査開始以来過去10年間で最多となりました。64社の内訳を見てみると、45%が経理・会計の処理ミスではあるものの、架空売上計上や損失隠しといった粉飾が34%、着服横領が20%となっています。2015年に発覚した案件以降、開示資料の信頼性確保や企業のガバナンス強化の取組みを求める声が浸透し始めたことが背景にあるのではといった見方もできますが、不適切会計・経理が増加している傾向は否定しがたいところです。


また製造業においては、データ改竄や品質問題等々の不祥事も後をたちません。昨年末から欧米メディアが特集を組んでおり、「日本の製造業モデルが壊れつつある(WSJ, 2018年2月4日)」「経営陣は好調な業績を示すのに必死にあり、時に品質管理の限界を試すところにまでいってしまった(BBC, 2017年10月13日)」との辛辣なコメントを出しています。

こうした不祥事を受ける形で、2018年3月30日、日本取引所自主規制法人が、「不祥事予防のプリンシプル」を策定しました。2016年2月に「不祥事対応のプリンシプル」が策定され、不祥事発生後の事後対応として、不祥事を起こした上場会社の速やかな信頼回復と企業価値再生を促す指針がでましたが、今回のプリンシンプルは、事前対応としての不祥事を予防する取組みに際し、その実効性を高める目的で策定されました。今回の特徴としては、不祥事予防は経営陣の役割であることを明示した点にあります。「経営陣はコンプライアンスにコミットし、その旨を継続的に発信し、コンプライアンス違反を誘発させないよう事業実態に即した経営目標の設定や業務遂行を行う」との記載があります。

では企業としてはどんな打ち手があるでしょうか。ひとつの手法としては、本社人事或いは指名委員会事務局として、少なくとも管理職以上については、個人がもっている「潜在的なリーダーシップリスク」を診断・特定し、後継者計画においては参考情報として参照することができるよう、リスクに関連する人事データを蓄積することです。というのも、過去の不祥事を研究し、不祥事が起こるメカニズムを纏めた不正のトライアングル理論(Donald. R. Cressey博士)でも示されているように、不祥事はその多くが個人のリスクに起因するからです。Cressey博士によると不祥事は、強い「プレッシャー」と、不正行為を「正当化」する主観と、不正行為が可能である客観的環境となる「機会」の三要素が揃うと、それまで善良であった一般人も不正行為を犯してしまうリスクがあるとのことです。逆に言うと、上記3要素の何れかを断ち切ることが不正防止に繋がることになります。解決策としては、「機会」については、各現場で具体的に解消する必要がありますが、残りの2要素については、個人の主観によるもの、つまり人間の資質に関わる領域であるため、予めこうした潜在リスクを特定する必要があるということです。

具体的にどう特定するかという話になりますが、残念ながら其々が抱える潜在的なリーダーシップリスクというのは、日々近くで働いている上司や同僚といえども、必ずしも正確に把握できるものではありません。余程深刻なリスクでない限り、平時では現れにくく、強いストレスやプレッシャーがかかる状況下で初めて現れるリスクも多いからです。ゆえに、リスク診断は、詳細な心理検査が最も得意とする領域となります。

私は日々CEOの後継者計画やアセスメントをご支援させて頂いていますが、CEOの最終選抜過程における最大の論点は、まさにこの潜在的なリーダーシップリスクの高低です。候補者の皆様は、平時では会社を代表するスーパースターであったからこそ候補者に選ばれるわけですが、CEO職は当然ながら、恒常的に強いストレス下において最高のパフォーマンスを発揮する必要があります。万一ストレスがかかると出てくるかもしれない潜在リスクを予め正確に特定することは極めて重要な論点となります。

ウイリス・タワーズワトソンのリーダーシップリスク診断検査では、下記9つのリーダーシップリスクを定義しており、其々のリスク程度を1から10のスコアで定量化することができます。

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リーダーシップリスク診断 ~ 9つのリーダーシップリスク

日本企業の役員層でしばしば特定されるリスクは「完璧主義」や「協力的」です。自身に対して「完璧主義」であることは寧ろ強みであり、高い実績をあげる要因にもなる一方で、行き過ぎた「完璧主義」は他者への過度な厳しさやパワハラ傾向の源泉にもなります。また「協力的」なリーダーは望ましい一方で、そうしたリーダーは、周囲から「好かれたい」動機が強すぎる傾向があるため、意思決定に際して周囲の意向に沿うことを重視し過ぎるあまり、組織にとって最善の決断ができない、決断が変わる、妥協的な決断に至るといったリスクがあります。弊社のリーダーシップリスク診断では、上記のリスク度合いを特定することに加えて、特定されたリスクを最小化するためには何をすべきかといった実践的な助言を提供します。結果、受検者本人にとっては、自身の潜在リスクを把握し、修正・開発に繋げることができ、また会社にとっては、不祥事やハラスメント、コンプライアンス違反等の予防に繋げることができます。

リーダーシップリスク診断は、市場導入直後から欧米を中心に爆発的に利用されていますが、最も適用されている層は、執行役員母集団です。少なくとも役員層においては、万一にも不祥事が起きないよう、本社人事機能のリスクマネージメントとして、その前段階で潜在的なリーダーシップリスクを特定し手当てすることが、会社にとってのリスクヘッジになると思います。


【 執筆者プロフィール 】

高岡 明日香 (たかおか あすか) 
アセスメントプラクティスアジア地域リーダー
Talent & Rewards

ウイリス・タワーズワトソン社において、アセスメントプラクティスのアジア地域責任者を務める。またコーポレートガバナンス・アドバイザリーグループ主要メンバーとして、取締役会評価、指名委員会設立支援及び運営支援等を担当。欧州・日本において、社長・経営層後継者計画、取締役会評価、経営層アセスメント、360度調査、コンピテンシー設計において、豊富な経験をもつ。

ウイリス・タワーズワトソン入社以前は、マッキンゼー・アンド・カンパニー東京オフィス、フランクフルトオフィスを経て、ラッセル・レイノルズ・アソシエイツロンドンオフィス、東京オフィスにて勤務。

一橋大学大学院国際企業戦略研究科卒。同大学院博士後期課程在学。
英国心理学協会、Saville、Hogan、OPQ認定アセスメントコンサルタント

【 著 書 】

《 ウイリス・タワーズワトソン 人事コンサルティング ニュースレター 》
2018年05月号 「後継者計画(サクセッション・プランニング)」の設計と運用
2017年02月号 経営者指名の現場から ~ 第三者評価が果たす役割 ~
2016年12月号 一橋大学 一條教授に「ガバナンスにおける要諦」について伺う
2016年10月号 一橋大学 クリスティーナ・アメージャン教授に「ガバナンスの今」を伺う